しっかりとした技術があれば、世間は放っとかない
2011年3月7日NHKテレビ番組、プロフェッショナル仕事の流儀を見ました。
岐阜の片田舎の中華料理人、古田等氏の「意志あるところに、道は拓ける」です。
プロフェッショナル 仕事の流儀 NHKテレビ
http://www.nhk.or.jp/professional/
有名店で修行をしたこともなく、海外で研鑽を積んだわけでもない、それでいて今では内外の一流シェフが絶賛する調理人とのことです。
年齢は55歳、31歳から意志を持って料理の道を拓いて来た。
歴史にもまれて生き残ってきた伝統料理に味付けをするのではなく、その上を行き新たな伝統料理を作り出す創作の道を拓くと言うことです。
私が開業仕立のころは往診をしていました。
その一つに元大学教授のお宅がありました。
新しい道に入ったばかりで、本当は言ってはいけない愚痴ばかりでます。その時このような言葉をいただき、今でも心に留めています。
「しっかりとした技術を持っていれば、どのような辺鄙なところに住んでいようと、世間は放っておかないよ」
それから数年たってNHKのトップランナーを見ていました。出演者はスガシカオさんでした。
彼も30歳前後の遅いデビューして活躍している歌手です。
20代はサラリーマンとして順調な生活を送っていたのが、突然辞めて一念発起作詞作曲シンガーソングライターの道に、突き進んで行った経歴があります。
一般参加者からの質問コーナーでのこと、「私は30歳ですが、中々歌の道をあきらめきれず今も作曲をしています。この先どうしたら良いか迷っています。」と言うような質問がありました。
彼の答えは次のようなものでした。「レコード会社は良い曲が無いかと探し求めています。テープに録音して担当者に送れば、良いもので有れば放っとかないはずです。」と言う趣旨でした。
今は情報化社会、特にこの10年ほどはインターネットの目覚ましい拡大で、それこそ過剰なほどの情報が流されています。
良いものがあれば、世間は放っておかない時代です。
食の世界でも雑誌や書籍やネットの書き込みがあり、隠れた名店など今やありそうもない勢いです。
私の通った東洋鍼灸専門学校の祖、柳谷素霊にも次のような隠れた名人を探し当てた、伝説のような逸話があります。
東洋鍼灸専門学校 創立者柳谷素霊
http://www.toyoshinkyu.ac.jp/top/sorei/
生徒のおじさんが千葉で開業していることを聞き訪れた。八木下勝之助と言う、片田舎の鍼灸師でした。
驚いたのは、彼は江戸時代に書かれた「鍼灸重宝記」と言う(B6サイズの小型本で復刻されました。それほど厚みもない本です。)1冊を何百何千回も読み込んで治療していたそうです。
昭和初期のころの話です。この話から八木勝之助翁は隠れた名鍼灸師となるわけです。
医療は同じような薬を使い、同じような技術で手術をしているはずです。それでも何となく口コミで、あそこの病院が良いと言うような噂が立ちます
医療類似行為と言われる我々鍼灸の世界になる、宣伝は制限されているので、ほとんど治療家の内容を知らせることは出来ません。
まだ隠れた鍼灸師はいるかもしれません。
学生時代先生から聞いたことですが。「患者が多いから治せるとは限らない。治せる技術があるのだが、なぜか流行らないところもある。」
鍼灸は個人営業なので、技術も千差万別。接遇がうまくない方もいらっしゃるでしょう。
それがこのような言葉となって語り継がれているようです。
昔名人の見学記を書いたり、本を次々と出版して名をはせた方もいました。その本を見て治療をしたが全く効果が無かった。そのような話を何人からも聞きました。
この世界は限定した世界での口コミがまだまだ主流になっている感があります。
自分の身体に関することであり、大げさに言えば命がかかっていることなのがその原因だと思います。
大事な身体を任せるのは、やはり知り合いの勧めが大きいのでしょう。
私の患者さんたちも治療効果が出始めたり、完治することになると仰る言葉があります。「初めは半信半疑でした」
患者の流儀でしょうか。
ネットになるとそれこそ情報は玉石混交、だまされることも多々あるわけです。
ネット社会になる前は、やはり出版が自薦他薦のメインメディアでした。そこから始まる口コミなどもありました。
でもそこにはまだ人のぬくもりを感じられたので、信頼関係は残っていました。
ネットはまだ信頼感はそれほど高くはありません。
それが今やネットの口コミと言う、ソーシャルネットワークやツイッタ―などの新手までが出てきて、今や大道にさえなりつつある感があります。
これが将来我々やそれこそ医療全体の、隠れた名店隠れた鍼灸師を見つけ出す、大きな流れになるかも知れません。
それは良いことなのでしょうか悪いことなのでしょうか。