リウマチ相談室のブログ~手のひら先生の独り言~

手のひら先生が鍼治療を通して思う、つれづれなるよしなしごとをお話します

大沢在昌新宿鮫 第10巻 絆回廊

 待望の新宿鮫シリーズ 第10巻が出ました。光文社刊。

毎回腰巻には最高傑作とか謳っているのですが、いつも物足りない思いがある。

もっと書けるのではないかとか、足りないなとか、こりゃ行き詰っているなとか、10巻も読んでいるといつもそれらのもどかしさが残ってしまう。

ダシルハメットやレイモンドチャンドラーのアメリカを舞台にするなら、ピストルバンバン撃つ場面が満載なのだろうけれど、日本ではそうはいかない。

ピストルを持てるのは警察官だけだ。でも読者はそれでも何時その時がくるか、ときめきながら読み進むのがハードボイルドだ。

やはり鮮烈なデビューの第1巻が楽しさから言えば一番でしょう。

無間人形で直木賞受賞したときは驚いた。こんなんで受賞出来るんだと。この1作品だけでの評価ではないことが分かってはいたのだけれど。

大沢在昌の名前はずーっと前、月間プレーボーイの連載で知っていた。でも変な名前だなぐらいにしか思わず、新宿鮫から注目するまで10年くらいは間があったかも知れません。

シリーズ化すると必ずダレルところが出てきます。

一度読者感想を送ったことが有りました。

筋がワンパターン化する。いつもエピソードを3つぐらい起こし、それがやがて繋ぎ合わされて収束して行く。お決まりのコース。

我慢ならなかったのは、鮫島刑事が刑事をやらなくなった時でした。読者カードに感想を書いたらそれを取り入れてくれたのかどうか、第8作で鮫島刑事が戻ってきました。

この時は盗難中古車の密輸出ルートの解明に、鮫島が地道に刑事をやっていました。

実際の警察官はもっと地道で大変な仕事でしょうが、この時はそのような背景が丹念に描かれていましたので、読み応えが有りました。

このシリーズを読んでいると、丹念な資料集めがなされていて、日本の警察機構の現状がどのようになっているのかとても理解できる。

それがどこまで真実か当事者でなければ分からないのであろうが、おそらくそうであろうと推測納得できるだけの文章で描かれています。そこが楽しみ。

中国人やイラン人など外国人による車の盗難と、盗まれた車がはるかアフリカの地で見つかる現実。それらを早くから描いていたのが、風化水脈の時でした。

前作狼花では不良外国人を取締れなくなった警察と、抑えきれなくなった日本の暴力団が協力関係を結ぶと言う、一般人には驚天動地のことでした。

でも事実はどうもそうらしく、警察庁内部で相当な議論が交わされていたようです。

世田谷の一家殺人など、日本人の犯行を超えたような事件もありました。また外国人による強奪事件や窃盗事件の検挙率が低下しているなど、警察だけでは取り締まれなくなっている現状があります。

我々市民の生活を守るため、優秀な日本警察も限界が来ているのかと思わされるような内容でした。

シリーズずーっと気になるのが、警察のヒエラルキーの説明です。

警察庁公安警察それと内閣調査室の関係の記述が長たらしいことがある。

単行本になる前に月刊誌に載せるため、このような記述がくどくどとなんども出てくるのかもしれない。

連想するのは宇能鴻一郎の困ったときは食い物の話を書くという技。

レイモンドチャンドラーにしても、それほど人間が描かれているとは思えないのだけれど、多くの人に愛されている名著になっています。

鮫島がもっと描かれていると深みが出てくると思う。それも今回では様々な工夫があって一歩前進していると思うが、もっともっと描けるはずです。

異邦人のムルソーのように、太陽が暑かったからと言う不条理な殺人動機も有るだろうが、多くは強い動機があるはず。

小説にするにはそれが特に必要と思うのだが、シリーズを通して「そんなんで人を殺すか?普通は動機を持つまでに様々な要素が交じり合って、そこまで至らないのではないかな?」

そう思わせてしまうような甘さがまだまだ多いと感じます。

これは納得と強烈な動機うなずける動機は、フレデリック・フォーサイスの「オデッサ・ファイル」で感じました。

フォーサイスの作品は短編でもそうですがプロットもしっかりしているし、特に最後にあっと言わせるだけの動機の設定が見事です。

何かの記者だった主人公が老人が残したファイルから、ナチの残党を追い詰めて殺すストーリーでした。

最後に分かったのはファイルに写っていた写真、そこには捕虜をかばうドイツ将校を撃ち殺すナチの将校が写っていた。その殺された将校は主人公の父親だった。

うろ覚えになっている筋はそのようなものでした。

父親殺しはやはり復讐しなければならないでしょう。納得できる動機なのです。

その納得できる動機作りが、全巻をとおして薄い。

そこを克服すれば新宿鮫は、単なるハードボルドを超えていくと期待しているのですが。

それと晶と言う恋人もいるのだから、たまにはエロもお願いしたいな。

でも本当は苦手で書けないんだろうと思う。

その時は従業員の宮部みゆき氏と京極夏彦氏にお願いすればいいと思うのだけど、二人ともこの分野はダメそうだもんね?これは冗談。